ダイブ・イントゥ・ザ・ムービー
~EXOFIELD THEATERで浸る映画の世界~


2021.February

XP-EXT1 / ダンスウィズミー


さて今回も筆者が制作に参加したBlu-rayのお話。『ラ・ラ・ランド』に『グレイテスト・ショーマン』、『ボヘミアン・ラプソディ』と、近年の洋画界はミュージカルや音楽映画が花盛り。そして2019年夏、日本映画界に久々に爆誕したミュージカル映画が『ダンスウィズミー』だ。

 

催眠術師・マーチン上田(宝田明)に、音楽が聞こえるといつでもどこでも「カラダが勝手にミュージカル」してしまう催眠をかけられてしまったOL・静香(三吉彩花)。これじゃまともに生活できない!催眠を解くべく、静香は夜逃げしたマーチンを追って日本中を奔走するハメに。はたして彼女の運命はいかに?……というストーリー。

 

原作・脚本・監督を手がけたのは『ウォーターボーイズ』(01)『スウィングガールズ』(04)矢口史靖監督。彼は日本映画にミュージカル映画が生まれにくい理由をこう語る。

 

「洋画は人種も言葉も違うので、急に歌やダンスが始まっても架空の世界として観てしまえる。でもこれを日本人がやると、観てて恥ずかしくノレない可能性が高い。作り手からすれば鬼門なんです。あえて挑むなら『こんな物語をミュージカル調にしてみました』ではなく『ミュージカルでなければ描けない物語』じゃないと作る意味がないんです」

 

そう悩み続けた矢口監督がたどり着いたのギミックが「催眠術」だった。「日常生活でいきなり人々が歌って踊り出す、ミュージカルのお約束ってヘンですよね? でも催眠術という設定なら、突然歌って踊り出す必然があるし、そもそもミュージカル映画でしか描けないぞ、と」(矢口監督)。

 

そんな本作のBlu-ray化にあたり、筆者は矢口監督と一緒に制作監修を務めている。実は『ウォーターボーイズ』以来、多数の矢口作品のパッケージ制作を筆者が担当しているのだ。

 

そして矢口監督が音質、とりわけパワフルな「音圧」にこだわったこのBlu-rayは、5.1ch音声にドルビーTrueHD方式を採用。リニアPCMやDTS-HDマスターオーディオでは押し出しが強すぎたのに対し、ドルビーが好バランスの音を聴かせてくれたのがその理由だ。なので再生時には、いつもよりちょっとだけ音量を絞るのがお薦め。

 

それでは!前置きが長くなったが本作を「XP-EXT1」で楽しんでみよう。この映画に流れる楽曲は、いわゆる既成曲がほとんどだ。その理由は明快で「静香を踊らせてしまう、街中に流れる楽曲」だから。その上で矢口監督は「古びていない、それでいて現代の若者が聴くと新鮮に感じる」楽曲をチョイスしている。

 

映画冒頭を飾る「Tonight ~星の降る夜に~」は91年の山下久美子のナンバー。これをジェントル・フォレスト・ジャズ・バンド(GFJB)のビッグバンドアレンジが華々しく、パワフルに聴かせてくれる。歌い踊るのは『ゴジラ』のレジェンド俳優・宝田明だ!ヘッドホン再生とはちょっと信じがたい、弾むベースの重低音にも驚くはず。

CH3、催眠術がかかった静香がマンションのロビーで踊り狂うのは、SPECTRUMの「ACT-SHOW」。GFJBのカバーのグルーブ感はオリジナルに負けず劣らず!静香が服の乱れをものともせずに踊るのは、ピナ・バウシュなどのコンテンポラリーダンスへのオマージュだ。

 

CH4、静香がオフィスで華麗に歌い踊る「Happy Valley」は、orange pekoeのナンバー。これぞミュージカル! な躍動感あふれるリズム感と、楽曲が終わった直後の「地獄のような落差」をお楽しみあれ。

 

また本作、音楽以外の環境音も丁寧にサラウンド音場に配置されており、ここではオフィスから逃げ出す静香の足音がキレイに左後方に移動したり、タクシー車中に聞こえる街の音楽が、音場の四方に周到に配置されている。

 

CH7、パワフルなビッグバンドアレンジの山本リンダ「狙いうち」。ノリにノッた静香が、レストランを大破壊する展開は爆笑必至。CH10の路上ライブシーンでは、シンガーソングライターのchayが演じる洋子に、静香と千絵(やしろ優)が合流する。そこで3人が歌うのはキャンディーズの「年下の男の子」だ。センター定位の洋子の歌声に、左から静香、右から千絵が合流し、音場がいっきに賑やかになる変化が楽しい。CH11でこの3人が歌うsugarの「ウエディング・ベル」は、矢口監督が「この曲を使うなら、これ以外のシチュエーションは考えられない!」と豪語する、衝撃、いや笑撃の展開が待ちうける!

 

こうして物語は進んでいくが、中盤のあるターニングポイントから、音楽に翻弄され続けた静香が、逆に音楽を使って危機また危機を乗り越えていくことになるのも、本作の面白いところ。見終える頃には、きっと前向きでハッピーな気持ちでいっぱいになるに違いない。オールキャストが総登場するカーテンコールのCH15「タイムマシンにおねがい」は、ぜひ最初に絞ったボリュームをぐぐっと上げて、多幸感にたっぷり浸ってください!


NAVIGATOR's CHOICE

XP-EXT1

虜になる、かつてない解放感。


NAVIGATOR

伊尾喜 大祐  Daisuke Ioki

 

Blu-rayプロデューサー。最新作は特典映像を手がけた『ラストレター』。近作には『ダンスウィズミー』、アニメ版『GODZILLA 』三部作、『今夜、ロマンス劇場で』『怒り』『君の名は。(ビジュアルコメンタリー企画・構成)』ほか。映画やドラマのSNS運用にも携わるなど、多岐にわたって活躍している。

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