ー早速ですが、レコーディングスタジオでは、ウッドコーンをどのように使われているのでしょうか?
梅津さん(以下敬称略):まず、レコーディングスタジオには鑑賞用ではない、スタジオモニタースピーカーと呼ぶスピーカーが主に置かれています。
このスピーカーの良い所は、音色の良い所も悪い所もよくみえるところです。もちろん、良いものでなくてはならないのだけれども、悪い所もハッキリみえる環境で音をつくってます。
それに対して、ウッドコーンは、フルレンジのシングルコーンなので、位相の乱れがなく、余計な音は削がれて聴こえてくるので、音楽的なまとまりがよくわかるんです。スタジオモニタースピーカーで聴いて良い音なのはもちろんなんですけれど、一般的な良いスピーカーで聴いて、楽曲のニュアンスが消えてないというのが制作上とても重要なポイントになります。
ー細かな音の聴き分けと、世の中に楽曲を出してからどのように聴こえるかの確認をされていて、目的に応じてスピーカーを使い分けされてるのですね。
梅津:そうですね。音作りの途中ではウッドコーンでは聴きませんが、ウッドコーンならこんな風に聴こえるかなって想像しながら制作をしています。あったかめの音がするかなとか、音の深みがみえるかなとか。出来上がったものの確認をウッドコーンで聴いたりしています。
東京音楽大学 中目黒・代官山キャンパスTCM Studio
ーウッドコーンオーディオについてはいつからご存知でしたか?
梅津:ウッドコーンは昔から有名でしたよね?木材をどう変形してコーンを作るとか、お酒に浸したスルメがアイディアの元になったとか、いろいろ逸話があるじゃないですか。
ーウッドコーンは、開発の道のりが長く、創意工夫の集大成で、実は今も進化し続けてます。だから、開発責任者の今村に話を聞くといろいろな逸話が出てきて長いですよ。でも、彼がのんべえだったからお酒に浸したスルメに着目して開発に成功したんです(笑)
梅津:今村さんと飲みながらお話を聞く機会があったらもっと長い話が聞けますよね?そういえば、開発はどこでやっているんですか?
ーJVCケンウッド本社内で行ってます。音質開発については、ビクタースタジオのエンジニアと共同で取り組んでいるので、ビクタースタジオでも行っています。
梅津:昔、ビクタースタジオにいたのですけれど、そういえば、当時、ビクターのステレオ事業部と繋がりがあって、新しいスピーカーが出るときに聴きに行った記憶がありますね。
ー1968年から15年間、日本ビクターのレコード事業部に勤務されていたんですよね。
梅津:はい、その後フリーになり、今はミキサーズラボに所属しています。
ーウッドコーンは、梅津さんがミキサーズラボに入られた2003年に初号機が発売になったので、在籍時にはなかったのですが、昔からご存じとの事で、光栄です。
梅津:ビクタースタジオに行くとマスタリングのリファレンスとして使用されていたし、音はよく聴いてましたね。
制作作業中の梅津氏
ーEX-HR10000を使用されてますが、感想をお聞かせください。
梅津:素直さが良いですね。特にアナログ入力で音を入れた場合にそのままの音が飾り気なく出てくる。そういう良さがあると思います。
ー開発時にビクタースタジオのエンジニアにも相当鍛えられて製品化されているのですが、エンジニアとして気になる点はありますか?
梅津:この大きさだと超低音まで普通は出ないものですけど、これはしっかり出ているので、そこは頑張って音を出しすぎている気がします。バランスとして下(低音)まで出て良いんですけど、出ている部分にすーっとした伸びはないので、あえてそこまで出さなくてもいいかなと思います。
ー一般的な他の製品と比べて感じる事はありますか?
梅津:オーディオファンの方は、下(低音)も伸びて、上(高音)も伸びてといういわゆるHi-Fiを求めているように感じる事があるんですけれど、例えば、中域の音の持つあたたかみで非常によく音色を表現できるのがウッドコーンだと思いますね。
制作側としては、モニタースピーカーで本質の部分を見落とさなければ、まとまった音になるのがウッドコーンです。
ー本質の部分というのはどういう所でしょうか?
梅津:感覚的なことなので伝えるのが難しいのですが、本質の部分は、どこがどうのって聴き方じゃないんです。多くのレコーディングはマイクで音を拾うのですが、無指向のマイクは絶対に無指向で、指向性のあるマイクならその方向だけの音を完全に拾います。人間の耳は無指向なんですけれど、意識があって神経がその指向性を決めているところもあると思うんです。だからマイクはリアルなようでリアルじゃない。その空間を捉えているようでも本当は様々なことに左右されていて、人間の意識を捉えてスウィートスポットに設置しないとその音になってくれない。モニタースピーカーでその距離感を確認するんです。
ー人間の意識の部分ということでしょうか?
梅津:そうですね。実際にはマイクでしか録れない位置や距離があって、人間が選んでいる音との差がわかってないので。僕の場合は、マイクをここに置いたらこういう音がするだろう、こっちにずらしたらこんな音がするだろうという足し算引き算をして、頭の中に入れて、それを聴いて、答え合わせして、合ってるとか、ちょっと違うなとか、だったらこうしようとか決めていくんです。
そこを誤らなければウッドコーンで音が鳴ってもちゃんとした音が出るんだって思ってます。
ーウッドコーンの開発コンセプト「スピーカーは楽器でありたい」についてはどう思われますか?
梅津:とても良いですね。もっともだと思います。
楽器ってフラットだからよいわけじゃない。周波数特性がとてもいいから良い楽器かというとそうではなく、例えば、力強さだったり、輝きだったり、艶っぽさだったり、音楽や音質を表現するのにいろいろな言葉があるけれど、きっとどれも物理的なフラットじゃないというニュアンスだと思います。
学校の講義でも、「譜面は音楽かもしれないけれど、最終的なものではない」とたまに言ってますけれど、生演奏以外で最終的な音楽を表現するのはスピーカーですよね。そのあたりのタッチが楽器であるべきというのは理想的です。
実は、レコーディングスタジオの中も大きなひとつの共鳴体、楽器なんです。余計な響きがなく、表現ができる響きがあるように設計するんです。実際には音を鳴らして「下がほしいよね」とか「ここは音がくもるよね」とか地道に細かくやっていくんですけれどね。
スタジオの設計とウッドコーンの設計コンセプトは同じですね。
ーウッドコーンをご使用いただいて、特に良さを感じた楽曲はありますか?
梅津:木管楽器が入った楽曲とか、クラシックとかでしょうかね。クラシックは重低音はホントはあるんですけれど、ポップスのようにあえて低域はベース、高域はバイオリン、みたいな音の作り方ではないんですよね。クラシックにはその空間の自然な鳴りみたいな良さがあるんだけれど、重低音はそのシーンを支えるためにあったりするので、支える倍音と重低音とのバランスが取れていて、ウッドコーンはそれがわかりやすくて、よく鳴るんですよね。
ー東京音楽大学の学生さんの反応はいかがですか?
梅津:学生はここに置いてるウッドコーンを見て「いいな、いいなっ」って言いますね。
みんなほしいんじゃないですかね(笑)
ー一般の方にお勧めのポイントはありますか?
梅津:大きさも丁度いいから部屋に置けるしお洒落だし、この音質で手頃だと思います。これは自分の家にほしいよね。 手頃でありながら、楽器の一部だし、家具の一部でもあり、それに今の住宅は響きが多いような気がするので、音も合うんじゃないかと思いますね。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
梅津 達男
レコーディングエンジニア。
チェリッシュ、岩崎宏美、アン・ルイス、はっぴいえんど、髙橋真梨子、BIGIN、KAN、郷ひろみ、吉田兄弟、沢田知可子、川井郁子、辛島美登里、シャ乱Q、夏川りみ、矢沢永吉、等数々のアーティスト・楽曲を担当。
日本レコーディングエンジニア協会(JAREC)元理事長/MIXER’S LAB/東京音楽大学TCMスタジオ チーフエンジニア
紹介製品
ウッドコーン最高峰のプレミアムモデル
【特別限定商品】EX-HR10000